階段下のがらくた部屋

ハリー・ポッターの感想・考察から日々の雑事まで。だったのが色々あって将棋とか。

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闘いの理由  

2013年3月30日は、歴史に刻まれる日となりました。
日本独自の盤上遊戯、将棋を生業とするプロ棋士が、公の場で初めてコンピュータソフトに敗北しました。

舞台はニコニコ動画を運営するドワンゴ主催の、その名も電王戦。
日本の凄腕プログラマーたちが鍛え上げてきたコンピュータ将棋ソフトと、
プロの将棋棋士との対戦です。

第一局は3月23日に行われた、阿部光瑠(あべこうる)四段 対 習甦(しゅうそ)。
結果は阿部光瑠四段の完勝でした。

続く第二局が3月30日、佐藤慎一四段 対 Ponanza。
途中優勢な局面もありましたが終盤のミスを咎められ、
残り時間時間のない中でミスをしないコンピュータソフトに黒星を喫しました。
プロ棋士の看板を負って得体の知れない相手と戦い、
初めての敗者として歴史に名を刻んだ重荷がいかほどのものか
とてもとても計り知れません。
プロの将棋を観戦するのが好きないちファンとして、受けた衝撃は大きかったです。

つづく第三局、船江恒平五段 対 ツツカナ。
形勢が入れ替わりながらも人間優勢のまま終盤に入り、
しかし失着から一気に逆転、二つ目の黒星となりました。

電王戦が始まる前までは
「この戦いは将棋の一般へのアピール力は大きくても、戦うプロ棋士それぞれにはメリットがなくてリスクばっかりだなあ」
などと思っていたのですが、それはちょっと違うのかな?と感じるようになりました。
もちろん背負われるダメージの大きさは、私には計り知れませんが…

そしてこれまで私にとってまったく未知だったコンピュータソフトの強さと弱さ、
そして人間であるプロ棋士の強さと弱さ、といったものがおぼろげながらになんとなくではありますが
感触としてぼんやりと感じられた気がします。

終盤とんでもなく強いのかと想像だけで考えていたコンピュータソフトにも、
「完璧でない」ところがありそうに見えましたし(もちろん対戦相手が強いせいでしょうけど)
そんな強いソフト相手に、最後は敗れたものの途中挽回して逆転してみせたプロの凄み。

最後は計算でミスなく迫ってくるソフト相手に
鬼気迫る様子で抗うプロ棋士の姿に息を呑んだのは、私だけではないはずです。


私は羽生三冠のファンで、約一年前からほぼ羽生さんの将棋ばかりを見てきました。
電王戦でプロ棋士が敗れた戦いを見ていて、あることを感じていました。
こんな事を文字にするのは不躾で無礼で、暴言にもほどがあるとは思うのですが…


序中盤までで優勢に立たれた相手に差を広げさせないまま
一手間違えたら許しませんよ と虎視眈々と追走して、
相手が緩い手を指した隙を逃さず喰らいつき、一気に逆襲して勝利する…

(昨年度見てきた)羽生さんの将棋がどうしてもちらつきます。
もちろん質とか内容とか、全然違うでしょう。
私のような初心者がうわべだけを見た感覚でしかありません。


羽生さんといえば、現在名人に挑戦中であります。
先日椿山荘で行われた第一局の二日目、現地大盤解説へ観戦に行きました。
対局者を映し出すモニターのすぐ近くに席を確保し、見守りました。
形勢を体現するように、羽生さんは終始苦しそうに、しかし盤上に没頭して
身体を揺らして考え、頭をかきむしり、水を飲み、ため息をつき、最後の最後まで戦い抜きました。
結果は残念ながら敗北。
先手番で痛い黒星を喫しました。


そんな羽生さんの姿を見て観戦記者の貴志祐介さんは
”思考に没入するのに、人間の肉体が邪魔だという風情に見える”と表現されたとか。
コンピュータソフトは生き物でないからこそ、疲労、空腹、便意、動揺などがないのが将棋の勝負において強みとされます。

私が将棋のプロの戦いをこれまで観てきて感じるのは
将棋に没入している棋士は、”将棋を指すだけの生き物”になっている、ということです。
だから”人間の肉体が邪魔だという風情に見える”というのにもとても共感できます。
疲労する肉体がなければ、空腹や喉の渇きに苛まれなければ、トイレに行きたくならなければ、焦りや後悔を感じなければ…
そんな思いに駆られることもあるのかもしれません。

でも「閃け!棋士に挑むコンピュータ」に書かれていた、ある一節に衝撃を受けたことがります。
いわく、人工知能が真の意味で人間に匹敵する知性を獲得するためには、有限の肉体と”生きたい”という欲求が必要だ、と。

肉体や生命に限りがあるからこそ、知性というものが生まれるのだと。
人間のこの知性は生き残るために獲得してきたものなのだ、と。


電王戦第四局はタイトル獲得経験もあるベテランの塚田泰明九段 対 puella α。
序盤から少しずつpuella αが攻勢をかけて、塚田九段が形勢を損ねた中盤から
コンピュータソフトが苦手だと言われている入玉(※)を目指すも、駒をボロボロと取られて点数が全然足らない状態…
(※相手陣に自分の王様が入ること。将棋の駒は前にしか進めない駒もあるので、背後にいる敵を攻めづらいため、お互い入玉すると勝負がつかなくなって駒の数を点数に換算してで決着をつけることがある。)
解説の声の調子も厳しく、観客も絶望感に包まれました。

人間相手ならありえない、前にまったく光のない、先に絶望しか待っていないところで
ひたすら延命をはかって逃げるだけ。

しかし、塚田九段だけが死に物狂いで前を見据えていました。
実績あるベテランプロ棋士として、ファンも棋士仲間たちも見ている前で、
地を這い、泥をすする様をさらしながら、数時間も孤独な戦いを続けた塚田九段。
信じられないことに、間違っていたのは見ている側でした。
勝手に絶望していたのです。
ソフトが入玉を苦手としていることを熟知していた塚田九段は
絶望的な局面に思えた将棋を、なんと引き分けに持ち込みました。
(駒の数を点数に換算してお互い24点以上の場合両者の合意の下に引き分けとなる)
この結果、電王戦五番勝負はプロ側から見て1勝2敗1分。
最終局へと見事にたすきをつなぐことになりました。

人間同士の戦いだったら必敗の、続けることすら屈辱の局面を耐えしのぎ、
観る者の冷笑を背後に感じつつ、それでも闘い抜いたその訳は…

「投了は考えなかったのですか?」

という記者会見での問いで、たまらずこみあげた塚田九段の涙がすべてを物語っていました。

「チーム戦ですから。自分が負けたら終わりですので。」


長きにわたって勝負の世界に生きるプロ棋士は、負けることに慣れているといいます。
30年以上の付き合いのある同僚のプロ棋士の方も、塚田九段の涙を見るのは初めてだ、と。

自分ひとりの勝ち負けではない。
「プロ棋士」という存在そのものを背負って、塚田九段は戦っていました。


人間が死力を尽くして戦うさまは、なんと素晴らしいんでしょう。
塚田九段だけではなく、第一局の阿部光瑠四段も、第2局の船江五段も、第三局の佐藤四段も、
戦う姿に心を打たれます。

今週末にはトッププロの一人である三浦弘行八段が、東大の大規模クラスタで動くGPS将棋と最終局を戦います。
どんな結末が待っているのか、最後まで見届けたいと思います。

電王戦第五局
4月20日(土) 10時対局開始(持ち時間各4時間)

電王戦第五局 PV

電王戦公式サイト
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